私のブログ。

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2014年を振り返ればひつじ年が後ろで待っている。 ※2015年1月4日追記

 2014年の私はUSBメモリのキャップを失くすこと2回目。次はスライド式のキャップがないUSBメモリを買おうと思うのだが、USBメモリってあんまり買い換えないからタイミングがつかめない。なのにその間もUSBメモリの進化は止まらない。ギガバイトでも使い余してるのにテラバイトのUSBメモリなんてつくってどうするつもりなんだ。

 そのうちに未来人が数千年後からやってきて「これ、アカシックレコード(世界が生まれてから滅ぶまでのすべての情報が記録されている)なんすよ」と手のひらサイズのUSBメモリを差しだしてくる。パソコンに差し込むと「新しいデバイスを検出しました」と無表情に告げられるのだが、そのデバイスはPCより容量がでかいんだ。とても内部の情報を漁ってられない。

 未来人によればアカシックレコードの高速クローリング・サービスはDLC(有料ダウンロードコンテンツ)だそうだ。

「ここまで大容量化するのに先人は多大な苦労をしたんだよ」と未来人は翻訳機ごしに流ちょうな日本語で言う。「君らの時代ではまだHigh-k素材だとかスピントロニクスを研究してわいわいしてるんだろうけれど、それらに頼った技術革新は100年もしないうちに頭打ちだ。私らの未来の時代を楽しみにしておくと良い。もっと研究のし甲斐がある楽しい最先端技術が君を待っているよ」

「でも……世界のすべてが保存されたデバイスができてるのに、これ以上何を研究するんですか」僕は当然の疑問をぶつける。

「研究することは、人類が続く限り尽きることはないんだよ。すべてがUSBメモリに記録されたとしても、誰かが成し遂げなければ机上の空論に過ぎない。だから未来の知的階級は研究を続けるのさ。私も私のするべきことをやっている」未来人は神経質そうにその長い髪の毛をいじっている。

「例を挙げよう。そうだね。私の研究なんだけど『野生化した羊コミュニティと家畜化された羊コミュニティが信仰する宗教の差異についての実験的研究』というのを修士論文に書いたよ」

「いったい何の役に立つのか分からない研究内容だな」

「いやね、羊の宗教というのはとても大切なテーマなのよ。羊はここ数百年で高等知能を得た生物の中でも代表的な存在じゃないですか。彼らの羊毛を衣服に、肉体を食料に利用している私たち人類としては羊と戦争したくないですよね。そのためには彼らの思想や信仰を正確に把握してやる必要がある訳です。しかし野生と家畜で羊のコミュニティは断絶しているし構築している文化もところどころ違う。その違いをまとめ上げたのが私の修士論文であるところの――」

 もういい。分かった、分かったから。ちょっと場所を移動しよう。そんな訳の分からない話はどこか居酒屋で、酒を飲みながら語ってくれ。

 

 未来人が持ち込んだ未来のラム肉を肴に酒を飲んでいればいつの間にか2015年がやってきている。

 除夜の鐘が鳴りだすと、酔いつぶれていた未来人は急に冷めた顔をする。「ああ、いけない。帰らなくては」

「帰るって、家に」

「そう、未来にさ」

 未来人はUSBメモリを取り出すと、そのキャップを外して宙に掲げた。USBメモリの差し込み口から光の泡が湧きだして渦巻くように広がり、居酒屋の風景を塗りつぶしていった。

「いったい何が起こってるんだ」驚き立ちすくむ僕。

「世界が新しいデバイスを検出したのさ」

 未来人は言う。「アカシックレコードに記録された時間船を世界に呼び出して、それにのって私は未来に帰る」

「ははあん。分かったぞ。世界がパソコンの代わりをしているってことか! 世界というパソコンにアカシックレコードというUSBメモリを差しこんで、記録されている時間船とやらをパソコンに移動させたってことか!」

 僕はほとんど理解できていなかったのに、無理に理解したような顔をつくって言った。急な別れが不思議と僕を焦らしていた。

「またね。次は未来で会おう」未来人は別れの言葉を告げる。

「おいおい。僕は君の時代には死んでるぜ」

「会えるよ。アカシックレコードに書いてあったもの。何度目の生まれ変わりかは知らないけど」

 未来人を包んでいた光の渦がはじけた。すると未来人の姿は消えていて、何事もなかったかのように居酒屋の風景が戻っていて、さっきまでのはすべて夢だったのではないかと思えてきて……。

 けれど未来人の立っていたところに赤い何かが落ちていた。未来人がアカシックレコードと呼んでいたUSBメモリのキャップだ。震える手でカバンから自分のUSBメモリをとりだし、合わせてみると、それらはぴったりはまった。

 僕はなんだかおかしくなって溜め息が出た。

「あいつめ。居酒屋の代金払わず帰りやがって」

 居酒屋の閉店後、雪の降る道を僕は一人歩いて帰っていった。