読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

私のブログ。

このブログを書いているのは誰かな? せーの、私だー!

落とす

 オレが会社帰りに利用した駅でよ、ぺちゃくちゃおしゃべりしてる女子高生の集団がいたんだ。まあぺちゃくちゃしゃべる女子高生の集団なんて珍しくないんだけどよ、でもアイツらったら髪は茶色いし、スカートは短いし、おまけに声まででかいとあっちゃあ当然周囲の視線を集める訳だ。珍しくなくても見てしまう訳だ。

 あのガキどもは分かってあんな格好やってんのか? すれ違う赤の他人にいっぱいじろじろ見られて不快じゃないはずがないだろうによ。

 でも悪いことばかりじゃない。アイツらが目立つおかげでオレは一番背の高い女子高生がかばんからハンカチを落とすところを目撃できた。彼女たちは話すのに夢中で落としたことに気が付いていない。オレは親切心を発揮し、ハンカチを拾い上げて背の高い女子高生に話しかけた。

「おい、落ちたぞ」

 背の高い女子高生はその不必要なほどに濃く化粧した顔を怪訝そうにして振り向いたが、ハンカチを見て得心がいった風に見えた。オレは女子高生が発する蒸せるような匂いに顔をしかめながら、やれやれだなと思った。しかし、彼女はすぐに不機嫌そうな表情をつくる。

「ちょっとオッサン。受験生に向かって『落ちた』とかありえなくない?」

 予想外の返しに戸惑っていると、隣にいた一番胸元をはだけている女子高生がキャハハと笑いだした。

「ちょっとユミ、そんな格好で受験生つったって説得力ないって。おじさん困ってんじゃん」

「なによお。あんただって受験生とは言えない格好じゃない」

 ユミと呼ばれた背の高い女子高生が応じる。

「でもさ受験にファッションはカンケーないよねえ。学力がありゃあいいのよ」

「違いない」

 女子高生の集団は一通り笑い合ったところでユミは思い出したようにハンカチを俺の手から受け取り、

「ま、ありがとーね。受験落ちたら恨むけど」と言った。

「落ちねえよ」

「は?」

「空を見ろ、一度落ちてきたことがあったか? 落ちただの滑るだのオレに言わせりゃ杞憂だ。杞憂でしかない」

 突然語り出したオレに女子高生たちは薄気味悪そうにしてオレから距離を一歩とった。オレもコイツらにはもう用はないから踵を返して足早に立ち去ることにする。

「空が落ちないか心配するような馬鹿と一緒にしないんでほしいんだけど!」

 背後から女子高生の怒った声が投げかけられて、「流石に受験生。漢文は勉強してるようだな」とおかしく思った。

 煙草が吸いたい。オレの足は喫煙所へ向かっていた。