私のブログ。

このブログを書いているのは誰かな? せーの、私だー!

風立ちぬを観た。ネタバレあり

 昨日ジブリの最新アニメ映画『風立ちぬ』を見たんですよ。

 すっごく良かった!

 前半の大仰な映像表現は迫力がありました。夢のシーンの壮大さ、地震のシーンの恐ろしさと言ったらもうすごい。

 後半の落ち付いた展開も良かった。ところどころ堀辰雄の小説を思い出させて、二重に涙を誘った。あれはずるい。

 

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燃える小説

 夕暮れ時の街に木枯らしが吹き、道路に散らばった銀杏の葉をカサカサ言わせる。歩行者に踏みつぶされた銀杏の実が異臭をまきちらし、通る人の顔をしかめさせた。だがこの道に這いつくばるN君の姿は通行人のしかめ顔を更に苦いものにした。

「N君、いったい何をやっているんだ」

 本屋で買ってきたと思しき小説のたくさん入った紙袋を脇に置き、カバンいっぱい銀杏を詰め込んだN君は僕に気付くと暗い笑顔を向けた。髭も髪も伸び放題だった。薄汚い服からは、出会ったばかりの頃のパリッとした服をお洒落に着こなしていた面影はうかがえない。「ディックは波に乗った文章を書くから好きなんだ」。サークルの新入生歓迎会で朗々とアメリカの作家の良し悪しを語り、男女を問わず魅了していた彼と、本当に同一人物なのだろうか。

「今日の夕ご飯を集めていたんだよ。おはずかしながら、お金が無くてね」

 そんなにたくさん本を買わなければいくらでも好きなものを食べれるだろう、なんてことは言っても無駄である。彼にとって生きることは本を買うことと同義であり、買えなければ死んでしまうのだ。さながら麻薬中毒患者みたいだ。薄気味悪い。華のある人生を送っていた彼がなんで落ちぶれてしまったかって? 「僕はSさんと出会うために生きていたんだ」。まだN君が本に憑かれていなかった頃、彼にはSという恋人がいたんだ。ここで察しの良いヤツは分かっただろうが、つまり彼を狂わせたのは女だ。ありがちな話だろう。「これまでの僕の人生は本を読むためにあった。でも彼女に比べたら小説なんてクソみたいなものさ。僕はこれからの一生を彼女のために費やすよ」。N君とSが別れたのはその一カ月後である。そしてその翌日にはSは俺の恋人になった。

 およそどんな男でも、最初にできた恋人に永遠の関係性を信じるものだ。だが本当にそうなるのは稀有な例である。逆に言えばN君のような哀れな男はこの世にたくさんいるのであるが、大抵は失恋の傷を背負いながらも立ち直っていく。だがN君が立ち直るにはプライドが高かった。「僕は彼女と小説のどちらかを選ばなければならなかった。僕は苦悩に苦悩を重ねた末、小説を選んだのだ」とN君は言った。N君の中では、N君がSにふられたのではなく、N君がSを選ばなかったということになった。そうでなくては彼は心を安寧に保つことはできなかったのだ。それでN君は一層小説を買い漁るようになった。食費も削ってまでして本を買っていることは、こけた頬と野草を食べるために拾い集めるみすぼらしい姿で分かった。

「Sを頼んだよ」。Sを奪ったことで一発殴られるかなと覚悟していたが、そのようなことは一度もなかった。N君はN君の中の事実を崩さないために、俺のことは間男ではなく、自分の代わりに愛すべき人を守ってくれるナイトだと見なしたらしい。俺がSと付き合ってからも慣れ慣れしく話かけてくるN君が、俺はとても気味悪かった。

「仕方ないから、俺のおごりで飯をつくってやるよ」

 そう言うとN君は目を輝かして頷いた。近くのスーパーで食材を買いこむと、俺たちはN君の家に向かった。

 N君の家は本で埋め尽くされていた。玄関を開けるとすでに本の山が積まれている。奥に見えるワンルームも本に埋め尽くされていて、少なく見積もっても二千とか三千冊はありそうだ。かろうじて人一人通れるスペースが空いており、それがN君の居場所なのだと言うことは分かった。「散らかっててごめんね」とN君は言う。「キッチンはなんとか使えるから」。確かにキッチンは清潔に保たれており、そこにも本はない。「水周りは本がふやけちゃうからね。置けないんだよ」とN君は語る。どうも久しぶりにちゃんとしたものが食えると浮かれているらしい。彼は饒舌になっていた。俺は買い物袋の中から食用油を取り出した。「調理器具は好きに使ってくれていい。ただ本は汚さないでくれ。それは僕の命だからね」俺は本を踏まないようにして奥の部屋に入る。「それで今日は何をつくってくれるんだい?」。なんで俺が奥の部屋に行くのか分からず怪訝そうなN君と見つめあって、俺はニカっと笑った。

「今日の夕ご飯は小説のソテーさ」

 俺は食用油を部屋中の本にぶちまけると、ライターを取り出して火を点けた。このライターは煙草を吸う俺のためにSがプレゼントしてくれたものだった。N君は一瞬何が起こったのか分からないという顔をして呆けていたが、すぐギョッとした顔をして、本の山を蹴散らして燃え盛る本にかけ寄った。叩いて消そうとするが、油の注がれた火がそう簡単に消えるものじゃない。これは悪魔の火だ。N君のすべてを奪う業火なのだ。

「何をするんだ、これは僕の命だぞ!」

「気持ち悪いんだよ、こんなに本を買いやがって! こんなものが恋人の代わりになるわけがないだろ!」

「なるんだよ! なるんだからしかたないだろ!」

 N君は涙目になって叫んだ。俺も泣きそうだった。ヤケになって俺は笑う。

「悪かったよ、N君の命を燃やしてさ。代わりに俺の命を奪っていい。つまり俺の命より大切なSも燃やしてくれていいよ」

 N君は火を消す無駄なあがきをやめ、ポカンとした顔をして僕を見た。

「なんだって。今、君はなんて言った?」

「だから、お前の命より大事な本を燃やしたお詫びに、俺の命より大事なSを燃やしてくれていいって言ったんだ!」

「いったいどうして」

 本に付けた火はどんどん勢いを増し、熱で皮膚がひりひりしてくる。唇を舐めて、口を開く。

「Sにふられたんだ。他に好きな男ができたってさ」

 男は初めてできた恋人に永遠の関係性を信じるものだ。俺にとってもSは初めての恋人だった。俺はとても悔しくて、悔しくて、Sを懲らしめたくて仕方がなかった。何が彼女を懲らしめうるか考えた末、昔捨てた男に殺されるのが一番だろうと思った。

「さあSを殺してくれよ、N君。復讐の時が来たんだ」

 N君は少し驚いた顔をした後、黙っていた。僕を見て、燃え盛る本の山を見て、考えていた。うんと頷くと顔を上げる。

「いや、殺すわけがないでしょう。殺人犯なんかなりたくないし」

N君はキッチンに置いてあった包丁を手にとり、火で刃を温めてから長く伸びた髪をもう片方の手でまとめて包丁でちぎった。

「まずは外に出よう。消防を呼んで、他のアパートの住民を避難させないと」

 そう言ってN君は僕の肩を押して外へ促した。

 

 N君はてきぱきと消防への連絡や近隣住民への避難を促した。その手際は彼がまだSと付き合ってもいなかったあの頃をほうふつとさせた。憑き物が落ちたようなさっぱりな顔をして、野次馬に混じり消防の消火作業を見ている。僕は隣で茫然とたっていた。

「こういう言い方は不謹慎だけどさ、本を燃やしてくれて良かったよ。僕は悲しみに囚われて小説という悪魔に取り憑かれていたのかもしれないね。いや、本のせいにするのは良くないな。僕自身の心に悪魔が住み着いて、本に依存させていたんだ。君は僕の心の悪魔を追い払ってくれたんだ。本当にありがとう。そして君、Sにふられたんだって?」

 N君は僕に向かってにっこりと笑いかける。

「男を捨てて別の男に乗り換えるような女を恋人にしたんだから、自分も同じように捨てられるのは想定できたことだろう?」

 その言葉に僕は頬を殴られた。いつかもらい損ねた間男への制裁のパンチだ。

 N君はこれから正しい人生に復帰するだろうし、Sも新しい彼氏とよろしくやるのだろう。僕はこれから警察につれていかれる。放火の罪って懲役何年だったかな。

くま

 大学の時になんとなく文学サークルに入っちゃって、みんな書いているからという理由で小説を書き始めた。小説を書いているときの自分の挙動は面白いなあと思う。

 私は小説が書けないとパソコンを何度も付けたり消したりする。なんとなく書けそうだなと思ってパソコンを付けてその文章をワードに書きこもうとするんだけれども、やっぱり書けなくて、書きたいことは頭にちゃんとあるのに書けないから悔しいのだけれども、パソコンを前にずっとぼうっとしてたって電気代の無駄だからパソコンの電源を落とす訳だ。そうして気分を変えようと本棚に手を伸ばす。漫画とか小説とか物理学の本だとかに。それを読んで、最初の一行に感銘を受け、なんだか頭にみずみずしい綺想が浮かぶ。あ、書けそうだなって思って、それで今消したばかりのパソコンを再び起動させるのだ。やっぱり書けない。書けなくて電源を落とす。あるいはツイッターとかでつぶやいたりする。

 小説とは書けないものなのだ。

初任給が出ました

 今日あだ名をつけられたんですけれど、名前がもじりにくいだけに、あだ名って本名とは無関係になる。おかしな行動をとっちまったらそれがあだ名になっちまうのさ。

 行動には気をつけなさい。それはいずれあだ名になるから。

 私は普通にお酒を飲んでいただけなのに、あだ名をつけられてしまったんす。

声の低い女の子

ソフトクリームと熱いお茶の組み合わせが好きなんですけれど歳なのかなあ。ソフトクリームだけだと歯にしみるのです。

 お茶は冷たくても熱くても美味しいのだけれども、冷たくても美味しいのは卑怯な感じがしますね。熱いお味噌汁は美味しいのに冷めるとまずい。コーラは冷たいと美味しいのに熱するとまずい。

 タイトルの話ですが、女の子は少し声が低いくらいがしっくりくる気がします。

 それだけ。

小クリ「車輪」

 就職活動をしないまま大学を卒業した友人が山にこもって自給自足の生活をしているというので、彼に会いに山に向かった。彼の母親から、彼を家に戻るよう説得してくれと泣き付かれたのだ。

 友人は突然の訪問を喜んで迎えてくれた。ボロを纏い、髭も髪も伸び放題で、少し痩せたように見えた。その身なりを心配して、「ちゃんと食べているのか?」と彼に聞いた。すると彼は唇を舐めて濡らし、たどたどしく、けれど勢いよく喋り始めた。

「ちゃんと食べてるかって? ああ、食べてるさ。山には食べ物がいっぱいだからな。山菜やキノコは学生時代も食ってたから見分けがつくし、芋虫って意外と美味しいんだぜ? 最近は仕掛けた罠に小動物なんかもかかるようになったし、ああそうだ、お前はタイミングが良い。今日はタヌキがかかったんだ。一緒に食べようぜ」

 学生の頃よりも饒舌なしゃべりに、彼は人恋しいのだと知れた。ならば何故こんな生活を送っている。大学の入学式で最初に出会った時の彼は、こんなではなかった。髭はなく、顔つきは精悍としていて、物静かで大人びていた。その彼が何故。何故なのだ。

「タヌキは食わん。お前の母親から食料をあずかっている。今日はこれを食え」

 そう言ってカップ麺やら米やらレトルトカレーが入った袋を差し出すと、友人は押し黙って目の色を変えた。物欲しそうな目で、食い入るように食料品を見ていた。しかし堪えるようにギュッと目をつぶると静かに首を振った。

「駄目だ。それを食べたら帰りたくなってしまう」

「帰ればいい。何故こんな生活を送る必要がある。虫や獣を食べ、野に暮らすくらいなら、社会に出て、働いて暮らす方がずっと楽だろう」

「俺は分からない」

「何がだ。何が分からないんだ」

「社会に出る理由が分からない。社会の歯車って言葉があるだろう。なんで歯車なのだ。あんなギザギザの歯を付けて他の歯車と噛みあうなんてさ、おかしいじゃないか。ただの丸い車輪でも前に転がり進んで行けるのに、わざわざ歯車になって噛みあわなくてもいいじゃないか」

 それだけ言って、彼は口を閉ざす。

 なんだか僕は友人がとても哀れに思えてきて、今日の説得は諦めることにした。彼がつくったタヌキ鍋を食べ、僕は街に帰った。

制空権

 三色パンとか三色ボールペンと言う物の仕組みがわからないんだ。三色パンはどうやってジャムだとかクリームだとか三種類の味をパンに注いでいるんだ。三色ボールペンはバネの位置が分からない。

 物の仕組みは分解すれば分かるものと思っていたが、三色パンを分解しても腹に収まるだけだし、三色ボールペンは元に戻せなくなる。物に凝らされた工夫と言うのは目に映る物だけでなくて、制作過程で加えられた技巧の後は見えないのだ。それが不思議な仕組みをつくりだす。

 ああ、今日も元に戻らなくなった三色ボールペンのバネが空にぴょんと跳んでいく。